全国学校保健・安全研究大会

令和5年度

令和5年度 全国学校保健・安全研究大会 in神戸   報告者 北條久美子

10月26日・27日に神戸で開催された上記大会に参加してきました。コロナ禍で3年前は中止、一昨年と昨年はweb開催でしたが、今年は4年ぶりにリアルでの開催となり、文部科学省・学校保健会や地元の県知事・市長ほか多くの来賓を迎え、参加者も学校関係者など多勢で大盛況でした。
以下に、1日目の記念講演と2日目に参加した課題別研究協議会の要旨を報告します。

【記念講演】
演題「ネット・ゲーム依存の成り立ちと対応」
講師 神戸大学大学院医学研究科 デジタル精神医学部門 特命教授 曽良一郎先生

情報化社会となりインターネット使用は増え、これら依存の有病率は、男性は約3%、女性は約1%、インターネットを過剰に使用しているリスクの高い人はこの5~10倍くらいいると推測される。
ネット・ゲームの依存と不登校・引きこもりの問題は、どちらが先であっても悪循環となり、学業・仕事に支障をきたしている。行動嗜癖の専門外来を受診する重症例では家族への暴力や盗みなどの問題行動を伴うことが多く、ネット・ゲーム依存では発達障害、特にADHDを伴っている例が多い。
快感刺激が長期間に繰り返されると脳の報酬系神経回路が変化し、週30時間以上のネット・ゲーム使用は危険閾に達している。
依存症は否認(自ら認めない)の病気であり、特効薬は存在しない。治療としては、他の楽しみを見つけネット・ゲームの優先度を下げることであるが、生きづらさからネット・ゲームに逃避している患者に対しては不登校や引きこもりの背景にある課題について支援を継続することが必要となる。
オフラインキャンプなど集団療法は効果を上げているが治療途中で脱落するケースも多く、治療への動機づけを維持することが重要だが、現段階では治療ガイドラインは確立されていない。
ゲーム機やスマホを取り上げても問題解決とはならない。自分をコントロールできない依存症という病気であることを周囲も理解する必要がある。
ネット・ゲーム依存に伴う問題行動への対処のために久里浜医療センターが中心となって「ゲーム依存症相談対応マニュアル」が作成された。教育現場や医療施設でも活用できる(下記からダウンロード可)
https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document45.pdf
インターネットやオンラインゲームが身近になり、問題のある使用が増えてはいるが、大多数の人は依存症にならず、大きなリスクもなく使っている。適切に使用している人にとっては、健康被害の可能性のために使用を制限することは権利の侵害と捉えられかねず、ネット・ゲーム依存が疾患と認識されるには一定の時間が必要で、教育界・行政・医療界の緊密な連携が求められる。

【課題別研究協議会】第6課題 学校環境衛生 
「研究発表」

  1. 岐阜北高等学校:生徒自身が環境衛生活動の動画を作成し大きな成果を上げている
  2. 大和郡山市立片桐中学校:同市内の中学校5校共同で、換気方法・条件を変えて温度を大きく変化させずに効率よく換気できる方法を研究した。
  3. 神戸市立和田岬小学校:阪神淡路大震災を経験したことから、平時にも災害時にも安心できる学校環境衛生を維持するための対策
    「薬剤師から見た避難所における環境衛生対策マニュアル」(作成:兵庫県薬剤師会)の紹介
     ↑ 入手については「兵庫県薬剤師会」に問い合わせて下さい

「講義」
「学校環境衛生基準」を踏まえた学校環境衛生活動の進め方~感染症予防と学校環境衛生活動~
講師 岐阜医療科学大学教授 永瀬久光先生

学校薬剤師の配置が義務付けられたのが昭和33年。平成21年には学校保健法から学校保健安全法に変わり「学校環境衛生の基準」から法的に位置づけが高い「学校環境衛生基準」になった。その変遷について説明があった。
以前は基準値(CO2:1500ppm以下)を保つことがなかなか出来なかった換気だが、新型コロナ感染症拡大以降は換気の重要性が浸透し、教室ごとへのCO2モニター導入で数値が目に見えるようになり換気のためのルールが出来て1000pppm以下も可能になった。
ただし、換気の徹底が図られる中、温度の管理が難しくなってきている。 児童生徒が自ら環境衛生活動の必要性に気づき取り組む姿勢が身に付いたことを期待し、取り組みを実践できるよう働きかける保健教育が重要である。