報告者 学校薬剤師委員会 委員長 根本 昌子
大会開催にあたり、文部科学省・学校保健会・宮崎県知事・宮崎市長ほか、沢山の来賓を迎えての大会でした。7日の17時からはニューウェルシティ宮崎で開催された第74回全国学校薬剤師大会in宮崎にも参加致しました。その場でモバイルファーマシーの展示の見学も致しました。
【記念講演】子供の身体活動・運動の現代的課題と解決策 ~今、学校・地域・社会がやるべきことは何か?~
講師 指定国立大学法人東京大学大学院 医療系研究科 公共健康医学専攻
健康教育・社会学分野 講師 鎌田 真光 先生
体を動かすことは全ての年代の人にとって、健康の維持・増進に重要である。しかし、世界的に身体活動の不足が広がっており、その状況は悪化している事が知らせている。身体活動の不足は循環器疾患やⅡ型糖尿病、がん、精神・神経疾患といった非常に広範囲に渡る疾病や障害のリスクを高める。世界保健機関の推計では年間320万人もの人々の死亡は身体活動の不足が原因となっており、日本においては、身体活動の不足は、喫煙、高血圧に次いで3番目の死亡原因と指摘されている。タバコの煙のように目に見えるわけでもなく、時間をかけてじわじわと体に害を与えていくことから、身体活動の不足は現代における「サイレントキラー」とも呼ばれている。
子供・青少年においても体を動かすことにより、体力(心肺能力、筋力)の向上、心血管代謝機能の健康、骨の健康、精神的健康、肥満の予防・改善、認知機能の向上といった様々な効果が得られることが知られており、WHOの最新のガイドライン(2020)では中高強度の身体活動(徒歩や自転車で通学する、外で体を動かして遊ぶ等の活動)を、一週間を通じて1日平均60分以上行うべきと推奨している。
子供・青少年の身体活動の現状
スポーツ庁の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によるとテレビやDVD、ゲーム機、スマートフォン、パソコンなどの画面を見ている時間が、一日あたり2時間未満の割合は、小学5年生が49%、中学2年生が38%であった。(平成29年度)。こうした「スクリーンタイム」と呼ばれる時間(特に学習目的での使用以外での使用)を減らすには、家庭におけるルール作りを含め、学校や社会で取り組む必要がある。また小学5年生の男女が家の人と一緒に、運動やスポーツを週1回以上する割合は31%(平成27年度)であり、家の人から運動やスポーツを積極的に行うことをすすめられることが「よくある・時々ある」の割合は小学5年生が57%、中学2年生は48%であった(平成30年度)。少子化、核家族化、共働きの進む今、時間、空間、仲間の三間不足が改めて課題となっている。
対策の方向性―私達に出来ることとは?―
*身体活動の機会は1日の流れのもとに整理する。主要な場面
通学、授業体育、休み時間、掃除、その他(部活動、クラブ、始業前、放課後)
わずかな量でも効果はある! まずは1分:1秒でも動いてみる、立ってみる。
*小さな取り組みが大きな社会革命のはじまり!
まずは一歩、踏み出してみましょう。
*マンガ運動器のおはなし「大人も知らないからだの本」推奨
参考にして頂ければと思います。
【課題別研究協議会】 第6課題 学校環境衛生
「研究発表」
1 鹿児島県立鶴丸高等学校:「学校環境衛生における保健管理及び保健教育の実践」
学校薬剤師の指導助言の下、全職員が共通理解を図り、組織的に学校環境衛生に取り組んだ。教職員の連携により生徒が主体的に行動できる保健教育にもつなげることができた。
2 宮崎県立宮崎西高等附属中学校:「生徒が発信する学校環境衛生活動」
学校薬剤師から受けた講話の内容を、保健体育委員が集会で発表することで、自らの理解を深めるとともに、学校環境衛生に対する他の生徒の関心を高めることができた。それにより、他の委員会と連携するなど、各委員会活動が活性化した。
3 和歌山県橋本市立高野口中学校:「学校環境衛生に基づく普通教室の照度検査と黒板面の色彩検査の同時検査について」
「教室が暗く感じる」や「黒板が見えにくい」、「教室の座席により見えにくさが違う」など生徒の声を受けて、学校薬剤師と連携し、より効果的な方法で検査を行うことができた。黒板面の色彩検査に関しては3人での検査を実行致しました。それらの検査結果をとおし、定期検査や日常点検の重要性を再認識した。
「講義」
学校環境衛生活動の意義 日常点検と保健教育の視点
講師 法政大学スポーツ健康学部 教授 鬼頭 英明先生
健康教育としてのアプローチ
環境衛生に関わる保健教育の内容は、学習指導要領では小学校体育保健領域、中学校保健体育科保健分野及び高等学校保健体育科科目保健を通じて、発達段階を踏まえつつ系統性をもって規定されている。
小学校 健康な生活において(小学3年)
毎日を健康で過ごすには、明るさの調節、換気などの環境衛生を整えることが必要であること。
中学校 健康と環境において
身体には、環境に対してある程度まで適応能力があること。身体の適応能力を超えた環境は、健康に影響を及ぼすことがあること。また快適で能率のよい生活をおくるための温度、湿度や明るさには一定の範囲があること。
飲料水や空気は健康と密接な関わりがあること。また飲料水や空気を衛生的に保つには、基準に適合するよう管理する必要があること。
高等学校 健康を支える環境づくりの中で
環境と健康
人間の生活や産業活動は自然環境を汚染し健康に影響を及ぼすことがある。それらを防ぐには汚染の防止及び改善の対策をとる必要があること。また環境衛生活動は、学校や地域の環境を健康に適したものとするよう基準が設定され、それに基づき行われていること。
それぞれに学習内容として盛り込まれている。高等学校では「環境衛生検査」や「学校環境衛生基準」の役割を学ぶことが期待できる。
日常点検(換気・明るさ、まぶしさ・水泳プール・学校の清掃)については養護教諭をはじめとする学校の教職員が実施者となる。全ての教職員が当事者意識を持つことが重要である。日常点検の記録に関しては学校薬剤師が確認する必要があり、点検表の作成には学校薬剤師の提案が必要であると思いました。
報告者 学校薬剤師委員会 委員 吉川 陽子
去年同様、文部科学省・学校保健会や地元の県知事・市長ほか多くの来賓を迎え、参加者も学校関係者など多勢で大盛況でした。以下に、2日目に参加した課題別研究協議会の2要旨を報告します。
【課題別研究協議会】
第3課題 心の健康
「研究発表」
1.心の健康づくりのために生徒とともに考える健康課題解決への取り組み
生徒の実態に応じた保健教育と、学校全体で取り組む「積極的行動支援」を通して
生活習慣と心の状態に関する調査結果などから指導や支援が必要の生徒を把握し、健康リテラシーやレジリエンス育成を図り子供たちの意識を高める支援を行っている。1週間の生活習慣振り返りシートをIT化することで毎日継続し自ら早く入眠し睡眠時間を確保するようになる生徒も増える成果があった。しかし、スクールワイドPBSの取組は、教職員の確保や研修時間の確保が必要なため教職員間の情報共有が今後の課題となっている。
2.誰もが心地よい学校づくり・学級づくりを目指した短時間グループアプローチの実践
「北辰タイム」の取組を通して
不登校生徒が増加する中、すべての生徒にとって教室や学校が居心地よい場所になることを目指し、一定のルールと型の中で自分の考えを伝えあうグループアプローチを毎週10分間継続し相手を知る、自分を知る取組をしている。実際に令和3年度末の不登校生徒の割合は7.4%だったが令和6年度7月末の不登校生徒の割合は3.0%と減少している。
休んでいる子供たちを受け入れる土壌を「北辰タイム」が作っているといえる。教師も同様友達と話すときはいつも共感的・受容的な態度を意識させていくことでより居心地の良い学校・教室へ変えていくことが今後の課題となっている。
3.ヘルスリテラシーとレジリエンスを高める健康教育の推進
村内唯一の学校で、卒業時に「ひとりだち」できることを目指して、学校医、学校薬剤師、保健師、管理栄養士など地域の外部講師に協力してもらい卒業後にも社会資源を活用しながら主体的に健康を保持増進できる力の育成を図った。その背景として、村の健康課題と上げられるのが生活習慣病、精神疾患及び思春期以降の引きこもりであり校内児童生徒の健康課題も肥満、運動不足のほかメタ認知能力が低く仲間とうまくかかわれない自己解決能力が低い結果を受け9年間の学校生活でヘルスリテラシー、レジリエンスの向上を目指す取組をしている。「食事、運動、睡眠、歯、性、心」の重要性を理解することで①保健室来室者数減少②自分の健康づくりに生かそうとする児童生徒が増えヘルスリテラシーの向上③多様な考えと取り入れ、問題を粘り強く解決する力は学年が上がるごと向上している④困ったときは援助を求める力やレジリエンスの向上が見られた⑤家族や地域と連携がネットワークとなった。
今後は卒業後の調査も行っていき継続する。
「講義」
子どもで見られる不安について
講師 社会福祉法人別府発達医療センター 大分療育センター 所長 清田晃生先生
子供の成長に不安はつきものである。自発的な活動の増加が葛藤を乗り越えながら成長している。サポーターである私たちが子供たちを理解して支援する必要がある。
不安と恐怖は医学的に意味合いが違う。恐怖は明確な対象や状況があることに比べ、不安は漠然とした心配や緊張感から生じる。病的な不安には質の異常(誰かが自分を見張っている)、量の異常(人前に出たら不安になる)がある。不安には脳の扁桃体、前頭前野、海馬が関係していると言われている。扁桃体は不安・恐怖の中心的役割で生後すぐに成熟する。前頭前野は理想的な判断ができるように働き中学生ごろから発達する。扁桃体と前頭前野のバランスが保たれていれば不安は生じにくい。扁桃体は成熟しているため、バランスを保つには前頭前野の活動を高めることが必要である。学校生活の中でレフレイング視点を変えてみる教育が前頭前野の活動を高めることができる。ちなみに扁桃体を下げるには薬物療法しかない。
不安には4つのレベルがある。①一時的な不安②神経症状の不安③うつ病に伴う不安④精神病性の不安である。
一時的な不安は時間が経つと軽減するため相談することで解決することが多い。相談された場合は肯定的に聴きながらレベルを見極めることが重要である。
余談になるが「大丈夫」には2つの「大丈夫」の意味がある。一つは安心を提供する、うまくいってもいかなくても大丈夫である。もう一つは自信を与える応援メッセージとしての大丈夫である。この場合自己効力感を持っていることが前提ということを忘れてはならない。
子どもの不安は①~③の状態が移り変わり揺れ動く。そのため「もともとどんな子供だったのか」この視点は大事になるため相談される側も寄り添う方法で行う。
子供の不安に対応するとき、まず4つの不安のレベルのいずれに相当するかをアセスメントし子ども自身と環境について総合的にアセスメントする。専門的知識が必要なことも多く、スクールカウンセラーや養護教諭の役割は大きい。
第7課題 喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育
「研究発表」
1.知的障害特別支援学校における喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育
「せい教育」学校、家庭、学校薬剤師との連携をとおして
「生」と「性」に関わる教育を「せい教育」と命名し喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育を指導している。12年間の繰り返しの教育を目指している。その背景として半数以上の児童生徒が日常的に薬を服用している。またスマートフォン所持する生徒も多く(70%)障害の特性によりメディアリテラシーが低くトラブルに巻き込まれるといった課題がある。
喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育を推進するにあたっては、せい教育推進委員会が中心となり児童生徒の実態や障害の特性に応じて知識の定着や日常生活への般化を図ることができるように全職員の理解のもと計画的に取組んでいる。一例として学校薬剤師よりオリジナルキャラクターを主人公にした漫画を使い生徒の実態に沿った指導方法の工夫により生徒の興味や関心を引くことで学習内容を深めることができた。学校、家庭、学校薬剤師が連携することで多方面から児童生徒を支える取組を継続する。
2.発達の段階に応じた薬物乱用防止教育の進め方について
伝えあい、学び合う授業と、系統的に行う薬物乱用防止教室の取組
生徒が主体的に取組み、伝え合う授業実践を行い、教科・領域の内容を補完する形で学校薬剤師に薬物乱用防止教室を実施している。高校1,2年の知識は薬物はやらない、やめるように話すと成果がでていたが、高校3年生の知識は「つらいことや悲しいことがあったら薬物を使ってしまうかもしれない」と2割の生徒が回答した。社会が大きく変化し、ネットでの情報があふれる現代では誰にでも起こりえると考えていかなければならない。学校、家庭、地域が連携しながら長期的に自尊感情を育んでいく必要がある。児童生徒との対話、家族との連携が解決策となる。
3.地域と連携した薬物乱用防止教育の取組
児童生徒会活動を通じて
児童生徒が主体となる児童生徒会活動として薬物乱用防止教育を実施している。児童生徒会の主体的な啓発動画作成や近隣の中学との街頭啓発活動を行っている。「自分事」として考えることが定着となっていると感じる。
学校薬剤師で学校を訪問した際に教室に入れず保健室にいる児童を見かける。
心の健康では子供たちの成長過程で不安を抱え葛藤しながら成長していることを大人は理解して寄り添う必要があるとわかった。特に印象的だったのは「北辰タイム」だ。毎週10分間通常は掃除時間を班で一つのテーマについて話す時間に当て自分を知る、他者を知る取組で他者を理解する、受け入れる教育に繋がっていると思う。その成果が不登校生徒の割合を下げたことが素晴らしいと感じた。
仲間とともに他者とのかかわりを大切にしながら自己の実現の道を歩む取組だと思う。
薬物乱用防止教育では、専門家である学校薬剤師からの講義が子供に残ることも嬉しいことだった。児童生徒が主体となる講義を学校薬剤師として提供できるようにこれからも学んでいきたいと思う。