令和7年度 全国学校保健・安全研究大会報告

報告者 学校薬剤師委員会 委員長 山内 大輔

令和7年度全国学校保健・安全研究大会が令和7年11月20日(木)・21日(金)に横浜武道館(1日目)、パシフィコ横浜ノース(2日目)で行われました。私からは第3課題「こころの」健康について報告させていただきます。

第3課題 心の健康
「豊かな人間性と社会性を育み、心の健康の保持増進を目指す教育の進め方」
① 児童生徒の課題に即した心のケアや健康相談の進め方について
② 心の健康づくりを目指した教育活動の展開と環境整備等の進め方について
③ 学校、家庭及び地域の関係機関との連携を図った心のケアの進め方について


< 研究発表1 >
ストレスマネジメントを取り入れた心の健康づくり
神奈川県綾瀬市立北の台中学校 養護教諭    関口 瑞恵 先生

綾瀬市では気持ちを伝えられない、自傷行為をしてしまう生徒が増えている。不登校も増えている。そこで生徒のストレスを知るためにアンケートを実施した。
アンケート結果
・学校に行きたくないことがある 約70%
・勉強に対するストレス 75%
・友人関係 25%
生活でのストレス・将来への不安が多かった。友人関係で悩んでいる生徒は予想より少なかった。
ストレスについて知り対応するために、ストレスについての授業を行った。
・自分の思考のクセを知る:モデルの思考タイプを提示してどのタイプに当てはまるか知る
・風船ワーク:風船型の図式を用いて自分の考えを文字化する
・6秒カウントダウン:感情をコントロールする前頭葉が動き出すまでにかかる6秒間怒りに対する行動を我慢する
・心の救急箱:自分や他者を攻撃しない解決方法を考える・自分の実施しやすい緩和方法を知る


< 研究発表2 >
心の健康づくりのために必要なライフスキルの習得をねらいとした取組
札幌市立札幌開成中等教育学校 教諭 井上慶太 先生

札幌改正中等教育学校は札幌初の公立の中高一貫校で理数英語に特化している。定期テストがなくレポートやプレゼンで評価するスタイルで数学や理科を英語で授業をする場合もある。6年間で一つのレポートを作成することが課題となっている。
生徒のこころのケアとして、こころとからだの時間の授業「ここから」を行っている。
安心して自分を発信して他者を受け入れられるようになることを目的とする。「ここから」ではパンダのかぶりものを被っているスクールカウンセラーが参加しており生徒たちに親しまれている。また4月、8月、1月の学期初めにレクリエーション会を作り親睦を深めている。先輩による後輩へのアドバイス会も行い学年を超えた交流の場を作っている。
「ここから」の活動をとおして
・自分の考え方のクセを知る
・コミュニケーション能力
・他者を理解し受け入れる
・物事を前向きにとらえる
が、できる生徒が増えている。


< 研究発表3 >
心身の健康課題解決に向けた自己決定能力を育む教育活動の促進
埼玉県入間市立扇小学校 養護教諭 青木真知子 先生

保健室登校の児童が増加している。そのような児童は自分の状況をうまく相手に伝える事ができない場合が多い。保健室登校の児童に対して「自分分析シート」を使用する事で本人も自覚できていない自分の現状を知り心身の問題解決の手助けをした。
「自分分析シート」により、辛さをレベルで数値化・目標を決めて数値化し、継続的に記録をする事で自分の現状を数字として捉えるようにできるようにした。
吐き気や体調不良になっていることの原因が不安や精神的なストレスであることを自覚できていない児童に実施する事により、心と体の問題に相関がある事を理解する事が出来た。体調不良の原因が精神的なストレスにある事を自覚することで体調不良による不安が和らいだ。
また全児童を対象にほめほめしりとり、リフレーミングなどのゲームを用いて他者とのかかわり方について学ぶ授業を行った。また対象児童への対応一覧表を作成し校内で共有し、教員のみでなく事務員も分かるようにした。健康観察アプリを活用して家庭との連絡を効率化する事ができた。地域とのつながりも大切で地域保健課につなげてカウンセリングを行い児童を保護する事ができた。


< 講義 >

心の健康 児童生徒のこころの健康課題について
あさかホスピタル 院長 水野雅文 先生

精神疾患の患者数は増加し、軽症化、多様化、複雑化している。精神疾患は若者に多い病気であり、若者の生活に影響を与える疾病となっている。患者の生活に影響を与える主な疾患は44歳以下精神疾患・メンタル、45歳から循環器疾患・悪性腫瘍となっている。精神疾患の70%は25歳以下で発症しているが、うつ病の受診率が低いため早期の発見が難しい。
自殺については男性に多く総数では減っている。しかし10〜39歳の死因は自殺が1位で若年者の自殺は増えている。特に若年女性の自殺が増えて若年層では比率が男女逆転した。自殺は原因が多様であり秘匿性が高いことから分析が難しい。
リストカット、オーバードーズによる自傷行為をする児童生徒が各学校に1人近くいる。カフェイン依存にも注意が必要。エナジードリンク、スマホ、ゲーム依存など現代的な問題も増えている。専門医による治療が必要である。受診が早いほうが治療の効果が高いが精神病に対する偏見や差別、羞恥心が受診を遠のかせている。対応として精神疾患に関する教育が必要。学習指導要領には精神疾患の予防と回復の記載がある。高校ではうつ病、統合失調症、不安症、摂食障害について病識、治療について学ぶ授業がある。メンタルヘルスリテラシーを向上させ、子どもたちが悩みを訴えやくする必要がある。またSNS等による若者に相談しやすい窓口を増やしていく必要がある。誰か一人が頑張って解決できる問題ではなく、学校、行政、専門職による連携した対応が必要でありチームで子どもたちを守っていくことが大切である。

報告者 学校薬剤師委員会 委員 宮島 孝之

全国学校薬剤師大会 全国学校保健・安全研究大会
日時:令和7年11月20日・21日

講義 「子供たちの命を守るために」
ASUKAモデルと学校の危機管理体制の強化
演者 公益財団法人日本AED財団 理事 桐淵 博 氏 

2011年(平成23年)9月29日
桐田明日香さんが放課後の校庭で行われた駅伝の選手選考で1000m走のゴール後に倒れた。現場で指導していた教員等が「呼吸がある」「脈がある」ととらえため、胸骨圧迫や人工呼吸などの心肺蘇生、AEDの装着などの救命処置を行わなかった。約11分後到着した救急隊により救命処置が開始されたが、治療の甲斐なく翌日亡くなられた。
教員は全員救命講義を受講していたにもかかわらず救命処置をしなかったことが大きな問題となった。
問題点は次のとおりである。

【緊急時の判断・対応能力の問題】
①痙攣や死線期呼吸が心停止のサインであることを知らなかったこと
②熟達した医療従事者以外は脈をとるべきではないことを知らなかったこと
③AEDには診断機能がありとるべき行動を指示するので誤って電気ショックを与える危険がないなどの理解が不十分だったこと

【学校の危機管理態勢の問題】
④「子供がたおれた!」という想定訓練をしていなかったこと
⑤養護教諭に頼りすぎていたこと

【教職員の危機意識の問題】
⑥元気な子でも突然倒れ死に至る事が想像できなかったこと
⑦「正常性バイアス」「多数派同調バイアス」が生じたこと
ASUKAモデルはこれらの教訓を基につくられた

研究発表
さいたま市立小学校におけるASUKAモデルによる救命事例の報告
訓練が命を救う 
危機管理体制の構築とASUKAモデル
演者 さいたま市小学校 養護教諭 鈴木 優 氏

①事故の概要
令和3年4月授業参観後、小学校1年生児童がランドセルを背負ったままつり橋型の遊具を渡っている途中、足場のパイプの隙間から落下し、パイプとランドセルの間に首が挟まれて宙ずりの状態となり、意識を失った。近くにいた別の保護者が発見し、職員室に連絡した。教職員が現場に駆けつけた際、児童は呼びかけに反応がなく、けいれん、チアノーゼ、死線期呼吸が確認されたため、直ちに胸骨圧迫と人工呼吸を開始した。AEDの解析はショック不要であった。胸骨圧迫と人工呼吸を継続し、発見から6分後に反応が見られた。児童は数日入院したが、後遺症なく回復し現在は元気に通っている。

②訓練の成果
傷病者発見時対応訓練が活かされ、教職員が必要な役割を網羅し、連携した対応が出来た。胸骨圧迫、AEDの準備、人工呼吸、119番通報、記録、保護者対応、救急車誘導など、複数の対応を同時並行で行うことが出来たのは、実際の場面を想定して訓練を繰り返してきた成果である。また、最初に駆けつけた養護教諭を含む4名の教職員は応急手当普及員の資格を有し、日頃から訓練を共に企画・運営していたため、信頼関係と共通理解のもと、より迅速かつ適切な救命活動が実施できた。特に普段通りの呼吸ではない(死線期呼吸)という認識が一致し、ためらわずに胸骨圧迫が開始されたこと、小児への人工呼吸の重要性を理解していたことが救命につながった。

③今後に向けて
救命活動に関わった全員が感じたのが、「ASUKAモデルのおかげで救えた」「訓練が活かされた」という実感である。一方で意識のない児童を目前にした時、想像以上に動揺することを痛感したが、訓練の積み重ねにより命を救うために必要な知識と技術を体に染み込ませていたことや訓練で築いた信頼関係とチームワークによって、命を救うことが出来たとの発表でした。

今回このような講演を拝聴して学校薬剤師としてASUKAモデルを広く普及していく必要性を感じました。
さいたま市のホームページにて(https://www.city.saitama.lg.jp/003/002/013/003/p041538.html)アスカモデルのダイジェスト版が閲覧できるようになっていますので、是非閲覧して頂き、学校薬剤師だけではなく、職場のスタッフ、ご家族などにもASUKAモデルを普及して頂き、今後このような重大な事故が起こらないことを望みます。