くすり教育研修会

令和5年度

令和5年度 くすり教育研修会

日 時:令和6年2月4日(日)13:30~16:30
場 所:TKP ガーデンシティ PREMIUM 品川 HEART ホール8A / web
テーマ:「学校におけるくすり教育の現状と課題」

講演1「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律について」
講師 厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課 竹内大輔 氏
〔報告:学校薬剤師委員会 委員 北條久美子〕

昨年12月、大麻取締法と麻薬及び向精神薬取締法の改正案が成立・公布され、その概要について説明があった。75年ぶりに法改正されるが、法の施行は公布から1年を超えないことと定められており、実際に施行されるのは今年の10月頃と予想される。
大麻由来医薬品の使用を可能とするための法整備
現行法では大麻から製造された医薬品の施用は禁止されている。大麻の主成分として、THC(幻覚などを起こす成分:化学合成されたものは麻薬として規制)と、CBD(物質として規制されておらず、含有食品などは規制の対象外)があるが、法改正後はCBDだけでなくTHCを含有した医薬品・医薬品・化粧品などが利用可能になる。改正法では、大麻等を「麻薬及び向精神薬取締法」における「麻薬」と位置付けることで、大麻から製造された医薬品の施用を可能とする。
改正の背景:大麻草の利用は日本では茎・種子に限られるが海外では葉・根も利用し、その用途は伝統的な繊維以外にも多岐にわたる。また、大麻から製造されたEpidiolexは大麻成分のCBDが主成分である「重度てんかん症候群の治療薬」として欧米で承認されている。日本では現行の大麻取締法により輸入・施用は禁止されているが治験は可能であり、既に治験が開始されている。仮に薬事承認された場合でも現行法のもとでは施用が禁止されているため医療現場で活用できないことが課題であった。
大麻等の施用罪(使用罪)の適用
R3年まで8年連続で大麻事犯の検挙人員が増加、R4年も高水準で推移し、若年層における大麻乱用が拡大し続けている。大麻については他の規制物質と異なり、使用についての禁止・罰則が設けられていないことが使用へのハードルを下げているという調査結果がある。改正法では、大麻を麻薬として位置づけ、その不正な使用について禁止規定及び罰則(施用罪)を適用する。
大麻草の栽培に関する規制の見直し
大麻の用途が変化(医薬品等)しているが現行の栽培免許(栽培目的)がそれに対応していない。日本では安全性よりも盗難防止等の管理規制が中心で栽培者の負担が大きい。改正後の大麻取締法は、主として大麻草の栽培規制に関する法律となるため「大麻草の栽培の規制に関する法律」に変更となる。医薬品目的とそれ以外に分類し、医薬品原料を目的とする場合は現行の都道府県知事ではなく厚生労働大臣による免許となる。

講演2「薬害教育と学校薬剤師に期待すること」
講師 厚生労働省医薬局総務課医薬品副作用被害対策室・室長 谷 俊輔 氏
〔報告:学校薬剤師委員会 委員 山内 大輔〕

【薬害とは】・・・薬害 = 医薬品による健康被害 + α
・薬害には定まった定義はない
・訴訟において国または製薬会社の責任が認められたもの → 狭義の薬害
・安全性確保に関して関係者(国・製薬会社等)が本来果たすべき責任(役割)を果たさなかった結果生じたもの
✕科学的(薬理学的)な要因のみによるもの →副作用
✕医療行為の中で生じたもの → 医療事故

【薬害教育とは】
薬害を学び再発防止をするために行う
・薬害を知り、被害にあった方々の声を聴き、薬害発生のプロセスを学び、薬害が起こらない社会の仕組みを考える
・薬害を防ぐための社会の仕組みがうまく働くように、国、製薬会社、医療従事者(医療機関/薬局)に加え、薬を使う生徒たち自身がどのような役割を果たせばよいのかを考える

*薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)
平成22年4月28日抜粋

初等中等教育において薬害を学ぶことで医薬品との関わり方を教育する方策を検討する必要がある学習指導要領に盛り込まれるよう関係者が努力すべきであり、また、例えば、学校薬剤師等による薬物乱用対策等の教育活動等を参考にしつつ、各種メディアの活用なども含めた、医薬品教育への取組を行うこと等を関係省で連携して検討すべきである

【薬剤師に期待すること】
①くすり教育や薬物乱用防止教室などのこれまでの教育活動を参考にした、薬害教育への積極的な参画 (例:ゲスト講師としての授業参加等)
② 薬害教育の実施に関して、養護教諭、学級担任、保健体育科教諭など学校関係者との連携 (例:薬害教育の企画段階からの参画等)
③ 薬剤師という薬の専門家としての関わり(例:専門職の視点からの助言を行うことで生徒の理解を深める等)
④ 日頃の学校保健活動において、パンフレットや補助教材・視聴覚教材など薬害教育教材の活用

厚生労働省「薬害を学ぼう」のサイト
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakugai/index.html

講演3「くすり教育研修会 実践編-帰って来た薬物乱用防止教室-」
講師 日本薬剤師会 学校薬剤師部会部会長 富永 孝治 氏
〔報告:学校薬剤師委員会 委員 山内 大輔〕

【今年度のテーマ】
・薬物乱用防止教室の実践
・オーバードーズに対する啓発
・大麻の健康被害
(災害時に学校が避難所になった際の環境衛生管理)

【薬物乱用防止教室の実践】
・積み重ねが大切
・講習、実験、ロールプレイ、ブレインストーミングを有効に活用する
・断り方を知ることが大切
・開催率がコロナ前(2018年)83.2%からコロナ後(2021年)75.0%と下がっている
・コロナ禍ではオンラインでの薬物乱用防止教室実施もあった

【オーバードーズ】
・医薬品の不適切使用(OD)は、薬物乱用の入り口となることについて理解する
・医薬品の不適切使用に至る背景や心理状態を理解し自分自身を大切に思う感情の大切さを理解する
・薬の正しい知識を得ることが大切
 →日本薬剤師会・くすりの適正使用協議会でくすり教育用の資料を配布している
  https://www.rad-ar.or.jp/
・医薬品であっても用法用量を守らなければ薬物乱用になる

【大麻の健康被害】
・大麻グミが社会問題になった
・海外では大麻が合法な国もあるが、その国と比べると禁止している日本は覚せい剤等の他の薬物の使用率が低い
・大麻が安全な薬物ではないことを理解する

講演4「OTCのオーバードーズ」
講師 日本薬剤師会理事(一般医薬品等委員会担当)亀山貴康 氏
〔報告:学校薬剤師委員会 委員 北條久美子〕

違法薬物と違い、合法で入手しやすい一般用医薬品(OTC)を乱用する若者の増加が社会的に問題視されている。「薬物と生活に関する全国高校生調査2021」によると、過去1年以内に市販薬を治療目的以外に使用した高校生は全体の1.6%、約60人に1人が気分を変えるためなどを目的に、決められた量・回数を超えて使用していた。コロナ禍も影響して、市販薬の過量服薬による救急搬送は2倍に増えている。薬物依存症の治療を受けた10代患者が乱用した主要薬物は、2014年では48%が危険ドラッグ、現在は半分以上が市販薬である。乱用する人の特徴として、10~20代の女性が多く、怠学傾向・非行傾向がなく一般青年と変わらない生活背景であるが、ストレス・トラウマに関連する精神障害、発達障害を併存する場合が多い。乱用のおそれがある医薬品としてH26年に厚労省告示で「エフェドリン」「コデイン・ジヒドロコデイン」「ブロムワレリル尿素」「プソイドエフェドリン」「メチルエフェドリン」が示され、若年者に販売する場合は氏名・年齢の確認、必要と認められる量に限り販売することなどの販売規制が設けられた。しかし、現在では上記6種類に限らずデキストロメトルファン・アリルイソプロピルアセチル尿素・ジフェンヒドラミンの乱用が増えている。その施策として、販売個数制限には一定の効果はあるが、販売店の買い回りや乱用対象を他の医薬品へ切り替えた場合など、対応には限界がある。
これからの取り組みに必要なこと
①医薬品の適正販売
・適正なOTC医薬品販売の徹底
・医薬品販売制度の検討
日本薬剤師会では適正販売・適正使用についての薬局・店舗向けポスターを作製した。厚労省の啓発ポスターと併せて活用してほしい。
②乱用目的で医薬品を必要とする若者を減らす
・薬剤師がゲートキーパーとなり啓発
 気づく・関わる・つなぐ(専門家へ)・見守る
・おくすり教育で乱用防止活動(学校薬剤師)
日本薬剤師会では先出の医薬品の他、アセトアミノフェン・カフェイン・ロキソプロフェン・イブプロフェン・クロルフェニラミンなどを対象に加えて、薬局向けツールの制作を検討している。薬物乱用防止教育:恐怖(脅し)教育・知識伝達型アプローチは有効ではなく、社会的・個人的スキル(生きる力・セルフエスティーム)の向上が薬物における問題行動を減少させるのに有効である。

大麻の使用罪が追加されることは数年前の法案検討の頃から認識していましたが、実際の改正法の内容や背景の解説を聴いて、一般報道から得た知識とは差があることがわかりました。また、もし医薬品として使用可になったとしても、大麻の有害性を正しく伝えていきたいです。また、OTCオーバードーズについても、講演の内容を今後の薬物乱用防止教室に生かしたいと思います。

講演5「意図しないドーピングについて~ドーピングもルールを守らない薬の使い方~」
 講師 日本薬剤師会理事(アンチ・ドーピング委員会担当) 小林 百代 氏
〔報告:学校薬剤師委員会 委員 山内 大輔〕

【ドーピングとは】
・「スポーツにおいて禁止されている物質や方法によって競技能力を高め、 意図的に自分だけ優位に立ち、勝利を得ようとする行為」
・意図的に摂取したものでなくても違反を取り消すことはできない
・違反した場合、記録剥奪と一定期間の資格停止の制裁措置が科せられる
  記録剥奪 … 競技成績の失効、記録抹消、獲得したメダル・得点・賞金の剥奪
  資格停止 … 競技会への出場停止、 練習への参加や施設の使用禁止
  *「意図的」でなかったことを証明できた場合、 資格停止期間は短縮されることがあるが、記録剥奪は変わりない

【意図的ではない違反事例】
・2017年9月 日本カヌースプリント選手権大会
優勝したK選手がドーピング検査で陽性となり失格、資格停止処分となる
薬物はライバル選手が飲み物に混入させたことが判明
K選手の資格停止処分は取り消しとなるが、優勝という成績は失効のまま
 → オリンピック選考会から脱落

【世界アンチ・ドーピング規程 CODE】
・全世界、全スポーツ共通のルール
・CODEの基本原理の最上位に 「アスリートの健康」が位置づけられている

・禁止表国際基準
  禁止される 物質と方法が記載された一覧表
  1年に1回更新される(2024年1月よりトラマドールが禁止薬物となった)

【日本におけるアンチ・ドーピング違反事例の特徴】
・ドーピングによる競技力向上を意図していないドーピングが多い
・8~9割はアスリートのリスク管理不足による違反といわれている
・アンチ・ドーピング規則や薬に関する適切な情報が提供されていたら、違反を防ぐことができたと考えられる事例が多い

【アンチ・ドーピング教育】
・ドーピングはフェアプレー精神に反するだけではなく、競技者自身の健康を害する
・2023年から国民スポーツ大会(旧国体)の参加資格に1年以内にアンチ・ドーピング教育を受けている事が義務化された
・オリンピックにおいても10代前半の選手が出てきている
・小中学生のうちからドーピングに対する知識が必要 → くすり教育の中で薬剤師が担えれば良い
・日本薬剤師会HPにアンチ・ドーピングに関する資料を配布している
https://www.nichiyaku.or.jp/activities/anti-doping/index.html